| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I1-03

外来生物の過去の分布拡大情報をもとにしたヒト新型インフルエンザH1N1の分布拡大予測

*小池文人(横浜国立大学),森本信生(中央農業総合研究センター)

緊急に情報が必要であり,病原体の運ばれ方もわからないときには,詳細な予測モデルを構築しパラメータを決定するのでなく,とりあえずの近似としてこれまで知られている外来生物の分布拡大パターンを適用することが有益である.人や物の移動には一定の傾向があるので,それに随伴して非意図的に運ばれる多くの外来生物は,類似した分布拡大パターンを示すと思われる.新型インフルエンザのような新しい感染症も,人や物の移動によって分布拡大すると考えられるので,外来昆虫の分布拡大と同じパターンで分布拡大しても不思議ではない.ヒトの新型インフルエンザ(H1N1)は2009年4月にメキシコで発生が確認され,日本では5月に国内での感染が確認された.この研究では,ほぼ全国に分布拡大した外来昆虫のうち,初期の分布拡大パターンが2009年における新型インフルエンザの分布拡大と類似した種を抽出し,新型インフルエンザのその後の分布拡大の予測を試みた.今回は外来昆虫とインフルエンザともに都道府県レベルの分布情報を利用している.新型インフルエンザの分布拡大終了後の情報を用いた場合には,侵入の順番はおおむね正確に予測できていて(r=0.75),侵入時期の予測誤差の標準偏差は11.3日であった.分布拡大初期に予測を行う場合を想定し, 感染が確認されてから1ヶ月後の2009年6月15日の時点の情報のみを使って予測を行った場合にも(6都府県に定着),侵入の順番はおおむね可能であったが(r=0.67),侵入時期の推定誤差の標準偏差は24.5日であった.この手法によって地域ごとの侵入の順番はおおむね予測できることが明らかになった.侵入の順番が自分の地域に近づいてきたら警戒すべきである.


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