| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-11

小笠原諸島における海鳥による種子散布

*青山夕貴子(東北大院・生命),川上和人(森林総研),

海洋島フロラの成立は鳥散布によるところが大きいと考えられている。また、外来植物の島間拡大に鳥散布が貢献している可能性も指摘されている。しかし、被食型散布の研究が量産される一方、鳥類の付着型散布についての研究はほとんどない。

多くの海洋島は、地上性捕食者の不在により、海鳥の大規模な繁殖地となっている。その高い飛翔力から、海鳥は効果的な種子散布者となると考えられる。本研究の目的は、海鳥の付着散布者としての役割を明らかにすることである。調査は、代表的な海洋島である小笠原諸島で行った。

我々はまず、海鳥の体表上の種子付着状況を調べるため、クロアシアホウドリ、オナガミズナギドリ、アナドリ、カツオドリの捕獲調査を行った。その結果、各種の15〜30%の個体から種子が検出され、外来植物も多く含まれていた。次に、発芽実験により種子の耐塩性を試験したところ、海水の影響は小さいと考えられた。さらに、海鳥散布が植物の分布に与える影響を調べるため、一般化線型モデルによる分析を行った結果、海鳥の分布と植物の分布には相関がみられた。これらの結果から、海鳥による付着散布は島嶼生態系の植物分布に重要な役割を担っていると考えられる。

次に、海鳥の役割の種間差を検討するため、繁殖地の植生調査を行った。その結果、クロアシアホウドリ繁殖地には裸地が多く、比較的多様な植物種がみられた。一方、カツオドリやオナガミズナギドリの繁殖地では、コウライシバ等の単一種が優占する単純な植生となっていた。このような違いは、種子の定着率に影響を与えると考えられ、散布者としての機能に種間差がある可能性を示唆している。海鳥による種子散布を体系的に研究することにより、海洋島フロラの成立過程の解明にとどまらず、島嶼生態系における外来種の島間拡大経路の解明にも寄与することができる。


日本生態学会