| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) J1-06

函南原生林における小氷期以降のブナ更新動態に与えた 冬期と夏期の気温の影響

*小出 大, 持田 幸良 (横浜国大・環境情報)

夏緑広葉樹林帯の代表種であるブナ(Fagus crenata)は、更新時に積雪の影響を強く受けるため、その更新動態は冬期の気温の影響を強く受けると考えられる。一方で夏期の気温は、親木の種子生産量や定着した実生の生長量に作用し、生産性を通して更新動態に作用すると考えられる。そこで本研究は、太平洋側ブナ林の分布下限域にあたる静岡県函南原生林において、ブナの更新動態に与えた冬期と夏期の気温変動の影響を明らかにし、どちらが更新動態により強く影響するかを明らかにすることを目的とした。

過去に定着したブナの幼木本数は、現在生育するブナの齢級(10年単位)ごとの個体数と、ブナ林における樹木の死亡率を用いて推定した。気象庁による気温観測が始まる以前の気温は、八王子と横浜における古日記に記された天候記録から推定した。冬期の気温は古日記に記された冬期の降雪率(降雪日数/降水日数)から算出した。また夏期の気温は同じく古日記に記された夏期の降水日数から算出した。

結果として、幼木本数は近年になるにつれて減少し、冬期・夏期の気温は上昇するという全体的な傾向が見られた。しかし幼木本数の変動は夏期の気温よりも冬期の気温との方が相関も高く、値が変化するタイミングも冬期の気温でより一致する傾向が見られた。また冬期の気温に関しては、10年間の平均気温が0℃を超えると急に幼木本数が減少する傾向があり、これにはブナの更新を促進させる積雪の期間や量が、0℃を境に大きく減少するためと考えられた。

以上のことから太平洋側分布下限域のブナ個体群の更新動態は、夏期(生長期)の気温による生産性への影響よりも、冬期(非生長期)の気温による定着条件への影響に敏感に反応していることが明らかとなった。


日本生態学会