| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-034

標高によって集団存続の規定要因はどう変わるか?-標高30~3000mに棲むミヤマハタザオを用いて-

*恩田義彦, 田中健太(筑波大・菅平セ)

植物は移動できないので、周りの環境に適応できなければ生存・繁殖できない。アブラナ科のミヤマハタザオは中部山岳地域周辺では、緯度がほとんど同じ範囲(約1.6度以内)の中で標高30m~3000mという非常に幅広い標高帯に分布している。温度などの様々な環境要因が劇的に変化する中で、集団のデモグラフィーはどのように変わるのだろうか。集団存続を規定する生態学的要因は、標高によってどのくらい異なっているのだろうか。それを明らかにするために、様々な標高に分布する集団で個体群生態学的調査を行った。5つの山塊の計28集団を対象に、各2~7個のコドラート(平均4.5コドラート・93.5個体)を設置して、全個体の食害率・生死を年に2回ずつ、2008年から2009年までの2年間にわたって追跡し、2009年には種子生産数も測った。その結果、高標高から低標高になるにつれて集団の夏の生存率が急激に下がり、冬の生存率は急激に上がった。また、低標高ほど集団密度が低く、食害率が高く、年間生存率が低く、種子生産数が多く、集団のターンオーバーが速かった。低標高集団が示した短い寿命・高い繁殖量・速いターンオーバーは、一年草の生活史に似ているのに対し、高標高では典型的な多年草型の生活史を示していた。生存と繁殖の間には標高を通じてトレードオフがあり、標高による両者のバランスの変化が生活史そのものを大きく変えていた。また、様々なデモグラッフィックパラメーターが標高によって顕著に異なり、しかも、パラメーターと標高との関係も、直線的・曲線的と様々だった。このことから、集団存続を規定する生態学的要因は標高によって変わること、異なる標高に対する局所適応の過程では様々なデモグラッフィックパラメーターに自然選択が働くこと、パラメーターによっては、強い自然選択が働く閾値的な標高があることが分かった。


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