| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-051

森林サイズがタブノキ林の遺伝構造に与える影響

渡部俊太郎(滋賀県立大・環境),金子有子(琵琶湖環境科学研究センター),前 迫ゆり(大阪産業大・人間環境),野間直彦(滋賀県立大・環境)

タブノキ(Machilus thunbergii)は東北地方から九州・沖縄の沿岸域を中心に分布する常緑樹である。しかし、タブノキ林は分布域が人間の生活圏と重なるため孤立断片化がされてきた。こうした孤立断片化がタブ林にあたえる影響を面積および立地条件の異なる6か所のタブノキ林の稚樹と実生の遺伝的多様性、種子集団の自殖率を比較し考察する。

成木および実生のサンプルは大面積で自然度の高い群落(石垣島、種子島)、比較的小規模な島嶼に成立している群落(京都府冠島、滋賀県竹生島)孤立断片化が進んだ群落(滋賀県犬上川、八所神社)、の6地点から採集した。果実は凶作で採集出来なかった石垣島、竹生島を除く4地点から採集した。その上でSSRマーカー8遺伝子座(金子、未発表)を用いて、それぞれの調査地の成木、実生の遺伝的多様性と種子集団の自殖率について解析した。各集団のAllelic richness(Rs), ヘテロ接合度の期待値(He), 近交係数(Fis)と集団サイズの関係性を調べた結果、RsおよびHeは実生、成木ともに集団サイズと強い正の相関を示した。Fisは実生集団において集団サイズとの間に負の相関が見られた一方、成木集団については明瞭な傾向は見られなかった。種子集団の自殖率については集団サイズとは明瞭な傾向は見られなかったものの、単木的に孤立した木においては,自殖由来の種子が著しく増加する傾向が見られた。孤立的個体群の滋賀県犬上川においてベルトトランセクトによる発芽率の比較を行った結果、単木的に孤立している個体の周辺では実生の発芽率が低下する傾向が見られた。これらの結果は、タブノキにおける集団サイズの減少が①次世代の遺伝的多様性の減少,②次世代の定着率低下の2つの影響を与える可能性を示唆している。


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