| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-279

生育地の不均一性と畦畔の不連続な構造が、棚田畦畔の種多様性に及ぼす影響

*丹野夕輝,山下雅幸,澤田均(静岡大・農)市原実,稲垣栄洋(静岡農林研)

伝統的な棚田の畦畔には希少種を含む多くの草本種が生育しており、保全的価値が高い。棚田畦畔全体の多様性は、局所群集内の多様性と局所群集間の多様性(β多様性)に依存する。β多様性は草本群集の多様性の主要な構成要素となりうる。β多様性の大きさとその生起要因の特定は、種多様性を保全する上で重要である。そこで、本研究では棚田畦畔の種多様性の空間パターンを解析し、その生起要因を推定した。

2010年10月に静岡県菊川市上倉沢の棚田畦畔11本の植生を調査した。各畦畔は、2つの微生育地タイプ(平坦面と隣接する斜面)に区分された。平坦面は畔塗りや踏圧により土壌が撹乱される。コドラート ( 0.5m2 ) を畦畔当たり4~6個設置し、全草本種の被度と土壌条件(土壌硬度と含水率)を測定した。植生データをもとに Additive Diversity Partitioning を行った。MRM ( Multiple Regression on Distance Matrices ) を用いて、コドラート間の非類似度と微生育地タイプ、土壌条件、分散の制限要因(コドラート間の距離、コドラート同士が水田を隔てるか)との関係を解析した。調査の結果、全体で85種の草本が確認された。微生育地タイプ間のβ多様性は16種 ( 19% ) であった。畦畔間のβ多様性は平坦面で39種 ( 60% ) 、斜面で48種 ( 66% ) と算出された。このように、観察された種多様性の多くの部分はβ多様性で説明された。土壌撹乱を受ける平坦面では一年草が、斜面では多年草がやや多く、微生育地タイプ間のβ多様性は部分的に撹乱レジームの違いに起因するものと考えられた。水田を隔てると非類似度が高まること、土壌条件による影響はないことから、畦畔間のβ多様性は水田部分が草本種の分散を妨げることに起因しうることが示唆された。


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