| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-287

野辺山高原におけるサクラソウ自生地の湿生および乾生群落の遷移状況の比較

*前田沙織(信州大院・農)大窪久美子,大石 善隆(信州大・農)

サクラソウPrimula Sieboldii E. Morr.は,環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定されており,一般的には比較的明るく湿潤な生育環境に分布する多年生草本である。調査対象地である野辺山高原では,かつてはサクラソウやサクラスミレ等,希少種の自生する湿性地が点在していたが,戦後の開発によってこれらの自生地は減少や分断化,乾燥化が進んだと考えられ,湿生群落の保全が課題となっている。信州大学農学部附属AFC野辺山ステーションではサクラソウの自生する湿生群落が残存する。発表者らが3年間にかけて湿生群落の構造を追跡した結果,ミヤコザサ等の競合植物の優占に伴う遷移の進行によって,今後はサクラソウの優占度が減少する可能性が示唆された(佐野・大窪,2008)。今回の発表ではサクラソウを含む湿生群落を保全する植生管理を検討するため,同じステーション内で本種が自生するEサイトにおける乾生群落の遷移状況を把握し,Pサイトと比較することを目的とした。調査方法としては,湿性群落(Pサイト)と乾性群落(Eサイト)において,4m×4mのコドラートを36と10プロット設置し,前者は2004年から2010年に,後者は2005年から2010年に植生および立地環境(土壌含水率と相対光量子密度)について調査を実施した。調査地の湿性群落は上層部が落葉小高木のズミやカントウマユミによって,乾性群落は林縁部に生育する落葉低木のハシバミによって構成されている。乾性群落において,2005年と2010年の9月の土壌含水率を比較すると,後者は前者の58。1%に減少した。これは樹高1.3m以上のハシバミの個体数が増加し,土壌の乾燥化が急速に進んだためと考えられた。発表では両立地における植物遷移の進行の違いについて比較検討する。


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