| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-314

実分布データから導く湿原絶滅危惧種の保全指針

*小幡智子(東大・農), 石井潤(東大・農), 角谷拓(国環研), 鷲谷いづみ(東大・農)

渡良瀬遊水地は、関東有数の面積を誇る氾濫原(約2000 ha)であり、国のレッドリストに掲載されている絶滅危惧植物60種が生育する。近年、土砂堆積に伴う乾燥化とそれに伴う植生の均質化、急速に分布拡大しつつあるセイタカアワダチソウによる植生への影響などが懸念されている。現在、その南東部を占める第二調節池(約500ha)において掘削による湿地再生事業が計画されているが、掘削による表層土壌の除去は、セイタカダチソウを除去し湿潤な湿地環境を回復させるための手法として有効である一方で、絶滅危惧種の分布や生育環境に影響を与える可能性がある。

本研究では、絶滅危惧種の大規模な分布調査(約115ha・11514方形区,国土交通省利根川上流河川事務所と東京大学保全生態学研究室が協力して実施)で得られた実分布データを用い、ニッチモデリングにより、湿地植生再生のための掘削がヨシ・オギ原に生育する絶滅危惧種に及ぼす影響を予測した。解析には、分布調査データ(10×10m方形区を単位とした各種個体数の順位データ)、過去に行われた掘削履歴図、標高(DEM)データを用いた。調査対象とした絶滅危惧種は、出現頻度が全方形区の6%未満のグループ(17種)と20%以上のグループ(8種)に大別された。十分なデータのある後者について、目的変数を各絶滅危惧種の個体数、説明変数を掘削の有無、地形指標(TPI)、標高として、一般化線形モデルを用いて解析した。

解析の結果、過去の掘削は、7種の絶滅危惧種に正に有意な効果を示した。このことから、掘削により一時的に個体群の一部が失われた場合でも、湿潤な環境条件が取り戻され、セイタカアワダチソウが排除されることで生育条件が向上し、周囲の供給からの移入により個体群が回復すると予想された。一方で、掘削を行う際は、低頻度分布種の分布を十分に考慮することが必要である。


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