| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-005
環境変化に応じて同一の遺伝子型でありながら表現型を変化させる生物の性質を表現型可塑性という。このような表現型可塑性が個体群動態に重要な影響を与える要因であると近年議論されてきた。被食者が可塑的に防衛形質の有無を変化させることは、捕食者の個体群動態を大きく左右する。そのため、誘導された防衛の個体群動態への効果を知ることは被食者―捕食者系の個体群動態をより正確に記述することにつながる。
淡水に住む藻類の一種であるイカダモは、捕食者であるミジンコやワムシの出すシグナル物質(カイロモン)に反応して可塑的に群体を形成することが知られている。群体を形成しサイズを大きくすることによって捕食者から食われ難くなるため、イカダモは捕食者に対して誘導防衛を行っていると言える。しかし、群体を形成する可塑性は捕食者の存在のみならず、増殖過程に関するその他の要因によっても発現することが先行研究で明らかになった。
そこで本実験では、異なる可塑性を示すイカダモ数株をそれぞれ捕食者であるワムシとともに培養し、捕食者の個体群動態にどう影響を与えるかを調べた。その結果、各系は誘導防衛をもつ種では短い周期の変動を示し、誘導防衛をもたない種では長い周期での大きな変動を示し、被食者の可塑性の現れ方の違いが捕食者の個体群動態に影響を与えることが示唆された。また、あるイカダモ株では、可塑性の現れ方に群体形成と細胞集塊の形成の2つの方法があることがわかり、これらがより複雑な可塑的防衛となって個体群動態に影響を与える可能性がみつかった。