| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-006

エゾアザミテントウにみられる地域適応とその遺伝的基盤

*川崎淳一, 鈴木克樹, 藤山直之(北教大・旭川), 片倉晴雄(北大・院理)

地域適応とは、ある生物の地域集団がその分布地域の環境で他地域の集団と比較してより高い適応状態を示す現象である。食植性のテントウムシであるエゾアザミテントウ(以下、エゾと略)はキク科のチシマアザミ(以下、アザミと略)を主な食草とするが、先行研究ではエゾの食草としてのアザミの質には地理変異が存在する可能性が指摘されている。本発表では、北海道の3地域(札幌市・増毛町・幌加内町)由来のエゾ集団およびアザミを対象として、エゾとアザミの系に地域適応が生じているかを成虫の食性と幼虫の成育状況という観点から検討した結果を報告する。さらに、明瞭な地域適応のパターンが検出された組み合わせを用いたより大規模な幼虫飼育実験と交雑実験の結果から推察された、エゾが示す地域適応の遺伝的基盤に関する予備的知見についてもあわせて報告する。

3地域集団の成虫は出身地のアザミの葉を最も多く摂食したとともに、各地域のアザミ上ではその地域を出身地とする幼虫の羽化率が最も高かった。この結果はこの系で地域適応が生じていることを強く示唆しており、特に、増毛と幌加内のエゾ集団ではそれぞれの出身地のアザミにはよく適応しているが他地域のアザミでは適応度が下がるという明瞭な地域適応のパターンが検出された。また、エゾの増毛集団と幌加内集団を用いた詳細な飼育実験からは、増毛集団が増毛と幌加内のアザミを餌とした場合の幼虫の生存率の間には正の遺伝相関が存在する可能性がある一方で、幌加内集団ではこの形質が負の遺伝相関または無相関を示すことが示唆された。交雑実験では、増毛集団と幌加内集団の間の雑種個体は増毛のアザミを餌とした場合に増毛集団と同程度の羽化率を示した。以上の結果は、エゾによるそれぞれの地域のアザミへの適応をもたらしている遺伝的基盤やその遺伝様式が地域ごとに異なっていることを示しているのかもしれない。


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