| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-022
クマにとって冬眠前の脂肪蓄積は,生存や繁殖成功に関わる極めて重要な要素である.よって,秋季の主な餌資源であるブナ科堅果(以下堅果)資源量の年次変動は,クマの生息地選択に大きな影響を与えていると考えられる.
先行研究により, 日光・足尾山地のクマは,堅果凶作年に行動圏を拡大させたことが分かっている.しかし,1)行動圏拡大によってクマがエネルギー生産のより高いパッチを発見することが出来たのか,2)凶作年にクマが利用可能なエネルギー量は,豊作年に比べてどの程度減少するのか, 検証されていない.そこで,本研究では堅果類の分布と結実量を反映させたエネルギーマップ(以下Eマップ)を年別に作成し,上記について検証した.
凶作年(06,10年)と豊作年(07-09年)において, 両期間に渡り追跡が出来た4個体を対象とし,凶作年の集中利用域(コアエリア, 以下CA)と,豊作年のCAを個体別に算出した.次に凶作年CA内と豊作年CA内のエネルギー量を凶作年におけるEマップから推定して比較した.その結果,凶作年CAの方が有意にエネルギー生産量が高いことが分かった.しかし,凶作年CAと豊作年CAのエネルギー量を,それぞれの年のエネルギーマップを用いて算出すると,凶作年CAのエネルギー量は,豊作年の値の10~30%しか存在しないことが分かった.したがって,堅果凶作年において,クマは行動圏の利用形態を変えることで,より資源を獲得することが可能であったが,それでもなお,豊作年と比較すると得られたであろうエネルギー生産量は極めて低いこと分かった.