| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-051

落葉広葉樹林におけるギャップ更新の実態 —稚樹群集構造の19年—

*阿部真(森林総研),高橋里衣(東農大卒),小山未奈(東農大・農学研究科),佐藤明(東農大・地域環境科学部)

天然林の群集構造を維持するしくみとして、小規模の撹乱で生じる林冠ギャップに対し、個体群ごとの様々な反応があることが重要とされる。しかしこのポピュラーな仮説は、実はほとんど実証されていない。本研究では、成熟林において多数の林冠ギャップに生育する稚樹群集を調査、追跡することで、樹木群集の更新動態の実態を追った。

北茨城市の小川群落保護林は、東北地方の阿武隈山地に連なり、ブナ、オオモミジ等が優占する冷温帯落葉広葉樹林である。6haの固定試験地とその周辺で、53カ所の林冠ギャップ直下に25m2の調査区を計115設定した。1990年から2009年までの調査に基づく結果は、次のようになった。

1.耐陰性の低い樹種の経年減少:1990年にギャップで多数観察されたリョウブ、ミズキ、ウリハダカエデなどは、同じ調査区の19年後にはほぼ姿を消した。死亡率では他にヤマウルシ、ミズメなどが高かった。また古いギャップでは、高耐陰性と考えられる種の稚樹が残存する傾向が、顕著だった。

2.サイズ効果の経年減少:1990年にはギャップの大きさによる更新樹種組成の違いが強く見られたが、同じ調査区の19年後ではごく不明瞭となった。

3.鳥散布型種子樹種の偏り:稚樹の樹種ごとの種子散布型について、固定試験地全体では風散布型の稚樹数が過半数だったのに対し、ギャップ内に限れば鳥散布型が拮抗していた。特に形成後30年以下の若いギャップでは鳥散布型の比率が高かった。

4.地形効果の差違:ギャップ内でいわゆる陽樹が多い傾向は尾根部で顕著であった。また谷部では、時間経過に伴い耐陰性の高い種が優占していく傾向があった。

ギャップ内の稚樹群集とその経年変化をみることで、林分の種構成が維持されている実態が示された。


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