| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-056

常緑広葉樹林北限の山域に発生する温度逆転現象と植生の垂直分布

佐野哲也*(森林総研),大澤雅彦(マラヤ大学)

東アジアにおける常緑広葉樹林帯は東北日本の低山で北限に至り、北緯約39度という分布北限は世界最北といえる。海岸沿いを北上するのでその成立には海岸特有の気候が関わっていることが考えられるが、その山地気候の実態は解明されていない。そこで本研究は、シイ林の太平洋側分布北限域にあたる阿武隈高地東部(北緯約37度)にて、(1)標高傾度に沿って温湿度を直接観測しその特徴を解明すること、(2)植生分布を説明する気温指標値として提案されているCI=-10℃・月,WI=85℃・月,CMT=-1℃と実際の山地における植生分布との対応関係をみること、を目的として行った。

この地域の常緑カシ優占林の分布上限は、既往報告によると、標高約250~300m、常緑カシ個体分布の上限は約400mである。ブナは低地にも分布が認められているが、優勢に成り始めるのは約500~600mであるとされている。これら標高域を中心に温湿度ロガーを設置し、2010年1月から12月にかけて計測を行った。

実測値から算出された気温減率は、冬期に大きく夏期に小さくなる傾向を示し、寒帯性気団と熱帯性気団の移り変わりの季節である梅雨や秋霖を境に著しい変化を見せた。年間を通じて、高度の上昇に伴って気温が低減しない逆転層、等温層が夜間を中心に発生し、発生時には低地側で高湿度となり靄や霧の発生が示唆された。熱帯性海洋気団の勢力が強まりはじめた時ほど強い逆転層が見られたので、放射冷却もさることながら、海岸からの暖かく湿った空気の移流がその発生機構に寄与していることが考えられた。冬期でも強い逆転層が発達することがあり、CMT=-1℃になる標高は約750m付近と、実際の常緑広葉樹個体の分布上限より高い位置になった。一方、CI=-10℃・月,WI=85℃・月となる位置はそれぞれ、常緑カシ個体の分布上限とブナ優占林が普通にみられるようになる標高付近になった。


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