| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-152

流速データから見た厚岸湖の生物生産

*長谷川夏樹,鬼塚年弘(水研セ・北水研),阿部博哉(北大院・環境),鎌内博光,渡辺健太郎,仲岡雅裕(北大・厚岸),岸道郎(北大院・水産)

日本の亜寒帯域のエスチュアリーには,しばしば広大なアマモ場が形成されており,アマモの動態が海洋環境や生物生産を特徴づけ,これら地域の活発な漁業生産を支えていると考えられる。本研究では,広大なアマモ場を有し,アサリ漁業やカキ養殖などが盛んな北海道東部の厚岸湖において,様々な調査で得られた流速データを解析し,アマモ場が湖生態系に与える影響の評価と,中長期的なアマモ場の盛衰が湖内の環境や生物生産へ与える影響の検討を行った。

その結果,流速の観測を行った湖内の各地点で潮汐に伴う往復流と湖内に時計回りの残差流の発達が観測され,それらが季節的に大きく変化することが明らかになった。すなわち,夏季には,アマモの繁茂によって湖北部や湖央部のアマモ場では流速が大きく低減するが,アマモが流出する秋季の流速は夏季の数倍に達した。これらの結果は,アマモが遊泳力に乏しい小型の甲殻類や魚類に好適に環境を供給する局所的な効果に加え,湖の広域的な流動とそれにともなう物質循環に影響を与えている可能性を示唆している。厚岸湖には湖北西部より栄養塩の豊富な河川水が毎時数十トンで流入しているが,夏季にはアマモの繁茂がその流入を制限し,湖内を時計回りに通過する河川水が減少していると推察される。アマモは,小型藻類や微細藻類などの一次生産者より貧栄養的な環境で優位に立つとされており,何らかの原因で湖のアマモ場面積や現存量の減少が発生した場合,生産期の夏季に河川水の湖内への流入量が増加し,アマモと競合する一次生産者が増加することで,さらなるアマモの減少と急速な湖生態系の変化,そして漁業への影響が懸念される。


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