| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-166

奈良県の光陽鉱山廃坑を利用するコウモリ類の2年にわたる個体数の変化

*細川 慎太郎(近畿大学大学院,農),中山 知洋(羽曳野市峰塚中学校),前田 喜四雄,桜谷 保之(近畿大学,農)

コウモリ類は日本産哺乳類の中で、もっとも種類が多いグループであるが、もっとも研究の遅れているグループでもあり、レッドリストに選定されている種も多い。一般にコウモリ類は昆虫類を餌とし、昆虫類に大きな捕食圧をかけている。また、コウモリ類自身も猛禽類などに捕食され、生物多様性を維持するためにはコウモリ類の保全は不可欠である。保全には生態の解明が基礎となるが、生態には不明な点が多い。本研究は数種のコウモリ類の利用が知られている奈良県の光陽鉱山廃坑におけるコウモリ類の季節的利用状況等を明らかにし、保全をめざすことを目的とした。

調査は奈良県五條市西吉野町唐戸にある光陽鉱山廃坑(長さ約700m)で行った。調査は2009年3月26日より、毎月1回以上日中に洞内に入り、コウモリの個体数を種ごとに数えた

本洞窟ではキクガシラコウモリ、コキクガシラコウモリ、モモジロコウモリ、ユビナガコウモリ、ウサギコウモリの5種が確認された。奈良県においてウサギコウモリは絶滅危惧種であり、他の4種は希少種である。キクガシラコウモリは季節的に個体数が変動し、7月には本種の出産・子育てを確認した。また、本洞窟を冬眠にも利用することが明らかとなった。コキクガシラコウモリは夏季には少なかったが、冬季には最大200頭以上が集合し、本洞窟で冬眠すると思われた。モモジロコウモリは冬季には本洞窟では少数確認されただけであったが、初夏に200頭をこえ、一部の個体は出産・子育てを行うことが明らかとなった。ユビナガコウモリは季節により不規則な個体数の増減を繰り返した。ウサギコウモリはこれまでに冬季に1頭確認されただけである。

本洞窟はコウモリ類の繁殖や越冬場所等として重要であると思われ、今後の保全に向けた継続調査や対策が必要であると思われた。


日本生態学会