| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-282

劇的な形態の変化: 北海道に産するエゾマイマイ群の例

森井悠太 (東北大院・生命)*, 横山潤 (山形大・理), 河田雅圭 (東北大院・生命), 千葉聡 (東北大院・生命)

北海道に分布する4属のオナジマイマイ科の北方種群がすべて互いに非常に近縁な属であることを、核およびミトコンドリアDNAに基づく遺伝的解析により明らかにした。さらにそのうち、北海道の広域に分布するエゾマイマイ属とヒメマイマイ属の2属についてはそれぞれが単系統群を形成せず複雑に入り組んだ系統関係をもつということが、島嶼を含む広域の個体群から採集した2属の核とミトコンドリアDNAに基づく系統推定によって示唆された。

これら2属は同所的に生息することも多く、これまでの調査ではマイクロハビタットにも有意な差異は見つかっていない。しかしながら、属間の雑種形成はこれまで確認されておらず、殻の形態的特長の定量的な解析からも各属が殻形態によって明確に区別され、さらに中間的な個体が存在しないことも確認された。すなわちこの事例は、系統推定に有用な中立なDNA領域では判別がつかないほどに近縁な種群が、明確な形態的差異やおそらくは生殖隔離を保持し、かつまったく同所的に生息しているという極めて興味深いものである。

核とミトコンドリアDNAに基づくそれぞれの系統関係を比較すると、核DNAではエゾマイマイ属が3つのクレードにまとまったのに対し、ミトコンドリアDNAでは2属の個体群が入り乱れたより複雑な関係が推定された。いずれの場合も2属間で同じハプロタイプの共有は見られなかったことや個体群の地理的な位置関係を反映したクレードが形成されていることから、核とミトコンドリアDNAに基づくそれぞれの系統の不一致は過去に起こった交雑によって引き起こされたと考えた。さらに、核DNAにおいてエゾマイマイ属が明確な3つのクレードに分かれたことから、エゾマイマイ属が複数回に渡って平行進化した可能性も示唆された。


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