| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-319

八甲田山田代平のシバ草地に侵入しているブタナの遺伝学的解析

*十亀彩(北里大院・獣畜),杉浦俊弘(北里大・獣),小島達也,森大祐,横川輝,馬場光久,陶山佳久(東北大学)

十和田八幡平国立公園の一部となっている八甲田山田代平では,1930年代以前からの牛馬の放牧によってシバ草地が維持され,現在でも景観上重要な植生として位置づけられている。また,1960年代にシバ草地周辺に外来牧草を導入した人工草地が造成され肉牛が放牧された。しかし,その後放牧地としての利用が減少して草地植生の維持が困難になり,人工草地にブタナのような非意図的導入種の外来植物が繁茂するようになった。さらにブタナは,人工草地だけでなくシバ草地にも生育していることが確認され,ブタナによる生態系のかく乱が心配された。そこで本研究では,田代平の人工草地とシバ草地におけるブタナの分布状況,種子などによる拡散能力および遺伝子解析による伝播経路の解明により,これ以上の拡散を防ぐ方策を提言することを目的としている。

田代平の放牧されていない人工草地(無放牧草地)とシバ草地において,合計22種類の外来種が確認され,その中でもブタナとハルガヤの被度が特に大きかった(十亀ら 2010)。ブタナの頭花1つ当たりの種子数は156.1±37.1個であり,これとブタナの1株当たりの花茎数(十亀ら 2010)から求めた種子生産量は,人工草地では198個,シバ草地では390個となった。さらに,人工草地とシバ草地のブタナ集団を対象にしてマイクロサテライトマーカーを用いた集団遺伝学的解析を行った結果, Fst値はどの遺伝子座でも0.020から0.075までの小さい値であり,田代平のブタナ集団間における遺伝的分化の程度は低いことが示唆された。

以上より,田代平のブタナでは人工草地からシバ草地に十分な遺伝子流動があり,盛んな種子生産によって分布を拡大している可能性が高いと考えられたので,シバ草地の保全にはブタナの種子生産量を抑え,種子散布をさせないことが不可欠と考えた。


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