| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-142

下層植生が衰退したヒノキ人工林における間伐後5年間の下層植生の種組成と植被率の変化

*渡邉仁志(岐阜県森林研),横井秀一(岐阜県森文ア),井川原弘一(岐阜県可茂土木)

ヒノキ人工林において,下層植生は表土流亡の抑止に有効とされているが,下層植生が一度衰退した林分では,間伐によってそれが回復しない事例が報告されている。本研究では,間伐(強度間伐,群状間伐)が,下層植生の発達に及ぼす影響を検証するために,岐阜県南部の4林分(6調査区)に各6~21箇所の小方形区(1㎡)を設置し,間伐後5年間の下層植生の種組成と植被率の変化を調査した。

間伐後,林内の相対散乱光(DIF)は大きくなり,草本層(地上高0.6m以下)の平均植被率は増加した。間伐5年後の平均植被率は,断面積間伐率が50%を超える間伐(強度間伐)や群状間伐を実施した調査区で,特に大きかった。ただし,植生発達の状況は,同じ調査区の中でも箇所によって違いがあり,どの小方形区でも一様に植被率が高いわけではなかった。草本層植被率50%(表土流亡の抑止効果が特に高い)を目安とすると,部分的にはそれを超える箇所があるが,全体ではそれに及ばない調査区が多かった。

種組成は,間伐後の年数や調査区に関わらず,間伐後に出現した種(新規種)が多数を占めていた。一方,植被率は,間伐2年後には,すべての調査区で間伐前から存在した種(既存種)の占める割合が高かったが,間伐5年後には,既存種の割合が高い調査区と新規種の割合が高い調査区とがあった。これら既存種や新規種が占める割合の違いには,間伐時の下層植生や埋土種子の有無が影響していると考えられる。

下層植生が衰退したヒノキ人工林で,強度間伐や群状間伐を実施することにより,下層植生が発達することが確かめられた。しかし,間伐後5年が経過し,DIFは間伐直後より低下した。一時的に発達した先駆樹種(キイチゴ属)が衰退するなど,林内の光環境が悪化していることが推測される。今後,植生発達に対するこれらの間伐の効果の継続性を調査する必要がある。


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