| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-146

富士山亜高山帯針葉樹林内の裸地・パッチ植生下のカラマツ実生動態

*荻野恭子,沖津進(千葉大院・園)

カラマツは亜高山帯の雪崩撹乱地や崩壊地において遷移の初期に出現する先駆樹種となっている.富士山の亜高山帯針葉樹林内(山梨県側北西斜面)には100年以上前に大規模な雪崩などの撹乱が起きた撹乱跡地があり,その中心には島状に遷移が進行しておらず開放地となっている場所がある.開放地ではパッチ状に植生が点在し,そのほかの場所は裸地となっている.遷移が滞っている場所には先駆樹種であるカラマツ実生の定着を阻害している要因があると考えられる.そこで今回の研究では,裸地やパッチ植生下,岩や倒木の有無などの周辺環境や微地形の異なる場所のカラマツの実生動態について調査し,カラマツ実生の定着阻害要因を明らかにすることを目的とした.

カラマツ実生は岩や倒木のない裸地区では少なく,パッチ植生や倒木,岩などがある場所で個体数が多く当年生以上の生存率も高かった.それぞれの場所で土壌断面を調査した結果,パッチ植生下では礫サイズが大きく裸地区では礫サイズが小さくなっていた.また,パッチ植生下では積雪が多く地表面の礫移動が少ない傾向がみられている.冬季の間積雪によって植物体が保護されていることや地表面が安定していることがカラマツ実生の分布に関連していると考えられる.また,パッチ植生内では樹木や地衣に覆われているためカラマツ実生の分布数は少ないが生存率が高くなることが推測される.裸地区では地形が凸地形になっている場所があり風衝地になっていると考えられ,冬の間の積雪量が少なくカラマツ実生にとって厳しい生育環境になっていると考えられる.以上の結果から,カラマツ実生の定着には積雪,微地形,礫サイズ,融雪時や土壌凍結などによる地表面の礫移動が関連していることが示唆された.


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