| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-164

ツキノワグマの1日の探餌行動パターンの区分

*有本勲(農工大院), 岡村寛(遠洋水研),小坂井千夏(農工大院),後藤優介(立山カルデラ砂防博物館),小池伸介(農工大),山崎晃司(茨城県博),古林賢恒(元・農工大),梶光一(農工大)

動物の探餌戦略についてはこれまで理論的研究(例えばLevy Flight)が多く、特に直接観察が困難なツキノワグマ(以下クマ)のような動物の実証的な研究は少ない。

動物の探餌パターンを評価するためには、移動軌跡から移動距離と滞在時間を定量的に推定する必要がある。近年、GPS首輪により高精度の位置情報が取得できるようになってきた。しかし多くの研究は長期間追跡するためにGPS測位間隔を長く設定していること、GPSの測位誤差が大きいことから、1日レベルの移動距離や滞在時間を定量的に評価することは困難であった。また、探餌戦略は食物資源の配置に対応して変化すると考えられることから探餌パターンを食物資源と対応させて理解することが重要である。

そこで本研究では、1日の移動距離と滞在時間を評価すること、それらの特徴に基づき探餌パターンを区分すること、その探餌パターンと利用した食物資源の関係から探餌戦略について考察すること、を目的とした。

調査は東京都奥多摩町で行った。クマ1個体(2歳オス)にGPS首輪を装着し2010年6~11月まで毎月1週間ずつ5分間隔で追跡した。状態空間モデルで移動軌跡を平滑化した後、移動軌跡を移動と滞在に区分し 、さらにGPS首輪に内蔵されている活動量センサから活動と休息を区分した。各日の移動距離と休息を除く滞在時間を算出し、その2つを説明変数とするクラスター分析により、1日の探餌行動パターンを5つに区分した。

その結果、クマが食物資源の配置に適応するように探餌パターンを変化させていることが示唆された 。本研究の1日スケールの移動や滞在の評価は、これまで困難であったクマの探餌戦略の定量的な推定につながり、保護のために役立つ情報となる。


日本生態学会