| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-188

ニホンジカ伊豆地域個体群の遺伝構造と行動の解析 Ⅰ -GPS首輪によるメスジカの行動と生息環境利用の把握-

*大場孝裕,山田晋也,大竹正剛,大橋正孝(静岡県・森林研セ)

伊豆地域ではニホンジカが増加し,農林産物被害や自然植生衰退を生じさせているため,静岡県は特定鳥獣保護管理計画を策定して対策に取り組んでいる.個体数削減が当面の課題であり,1日当たりのメスの捕獲頭数制限の解除等,狩猟規制の緩和に加えて,有害鳥獣捕獲や管理捕獲を実施している.推定分布面積約800km2において,平成21年度は約5,000頭(うちメス約2,400頭)を捕獲しているが,推定2万頭強生息するニホンジカの削減には至っていない.メスよりもオスが多く捕獲され,個体群の性比(推定メス約65%)と隔たりのある捕獲割合が続いていることが,個体数削減の阻害要因にもなっている.県では,狩猟者,猟友会に対してメスの捕獲を促しているものの,状況は改善していない.

子を産むメスの捕獲割合を高めるため,メスの行動特性や環境選択性を把握し,メスが多く生息する場所で捕獲を進めるなど,メスの捕獲効率を改善する必要がある.そこで,麻酔銃でメスを生体捕獲し,GPS首輪(Followit社製Tellus Basic 5H1D)を装着して,行動追跡調査を実施した.

2008年11月から2010年3月まで,17頭を追跡した.得られたデータには,マルチパス等による誤差の大きな測位点が含まれているため,GPS首輪で記録された標高と水平座標からGISを用いて求めた実際の標高の差が30m以下,かつHDOP(水平精度低下率)が4.0以下の測位点のみを使用して解析を行った.

1ヶ月以上追跡できた15頭のカーネル法による95%行動圏は45.6±30.9ha,50%行動圏は7.2±4.3haであった.行動圏の季節的な変化は明確には生じなかった.伐採跡地やササ草原,ゴルフ場,牧草地といった開放的な環境を選択的に利用している個体が多い反面,針葉樹人工林だけ,落葉広葉樹二次林だけを利用している個体もいた.


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