| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-211

トゲワレカラの子の保護方法は水が動くと変化する

*原田彩知子,安田千晶,竹下文雄(北大・院・水産),田中萌(岡山大・院・環境学),和田哲(北大・院・水産)

ワレカラは海藻上で生活する小型甲殻類であり、一部の種で母親が子を保護する。ワレカラの保護様式は、子を母親の身体につかまらせる「つかまらせ型」と、母親の周囲に密集させる「はべらせ型」の2型がある。トゲワレカラCaprella scauraは前者の保護をするとされていたが、私達の調査地 (北海道大学臼尻水産実験所の前浜) では、本種は両様式の保護行動を示していた。そこで、本研究はトゲワレカラを対象種として、以下の3点を解明することを目的とする; (1) 野外での各保護様式の出現頻度の定量的評価、(2) 子が産まれた後の経過時間と保護様式の関係の記述、(3) 捕食者と水流条件が保護様式に及ぼす影響の検証。

2010年5、7、9、11月に実施した野外調査の結果、36例の親子あるいは子集団が採集された。このうち、14例がつかまらせ型、18例がはべらせ型 (親が特定できなかった14例を含む) であり、残る4例では一部の子が母親につかまり、残りが母親の周囲に密集していた。また室内で止水下飼育し、出産後の保護様式を1時間ごとに133時間観察した結果、一部の子が出産直後に母親につかまっていたが、数時間以内に全ての子が基質に降りた。2009年11月に、親子に1又は3個体のオスを遭わせて30分間行動を観察する遭遇実験と、親子を入れた容器を1分間撹拌し、その後の親子の行動を30分間観察する撹拌実験を行った。実験前の保護様式は、ほとんどがはべらせ型だった。遭遇実験の結果、母親はオスに対して攻撃行動を示したが、保護様式は変化しなかった。撹拌実験で母親につかまる子の個体数が有意に増加した。なお、出産後経過日数は増加個体数に影響を及ぼしていなかった。トゲワレカラは、野外でも環境条件 (水流) に応じて可塑的に子の保護様式を変えていると考えられる。


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