| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-261

水田の土着天敵コモリグモはレンゲによって増加する

*山口 翔,水元駿輔,山下雅幸,澤田 均(静岡大・農),松野和夫,稲垣栄洋,市原 実,済木千恵子(静岡農林研)

水田徘徊性のコモリグモ類(Lycosidae)は高い捕食能をもち、水稲害虫の主要な土着天敵となりうる。そこで、コモリグモ類の保全を促すような圃場管理法を開発することが、水田の害虫防除サービスの強化につながる。コモリグモ類は水田内で越冬するため、田植え前の植生管理が発生個体数に大きく影響すると考えられる。これまでに、田植え前にレンゲを栽培した水田で春季(3月)の増加が観察されている。そこで本研究では、田植え前のレンゲ植生と耕起体系が水田栽培期間中のコモリグモ類の動態に及ぼす影響を調査した。

2010年に静岡県藤枝市と浜松市で調査を行った。藤枝市ではレンゲ不耕起区、不耕起区、耕起区の3処理区、浜松市ではレンゲ耕起区、冬不耕起区、耕起区の3処理区をそれぞれ2反復設置した。各処理区の水田内と畦畔において昆虫相(コモリグモ類とウンカ類)を6月から9月にかけて毎月1回、叩き落とし法とコドラート法により調査した。水田内のコモリグモ類個体数は、田植え前のレンゲ植生管理によって増加した。一方、耕起の有無による差はなかった。コモリグモ類の保全には、田植え前のレンゲ植生管理のように生息地を提供することが重要だと考えられた。他方、畦畔のコモリグモ類個体数は、6月(水稲生育初期)にレンゲ区で多い傾向にあった。畦畔はコモリグモ類にとって、田植え作業に伴う撹乱からの避難場所となるだろう。水稲害虫であるウンカ類個体数は、全処理区で発生程度が少なかった。以上の結果より、土着天敵コモリグモ類はレンゲによって増加することが強く示唆された。


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