| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-283
一般にカエルの前肢の指は4本であるが、なかには拇指と呼ばれる指状の形態を持つ種が存在する。通常拇指はオスがもつとされるが、奄美諸島に生息するオットンガエルは、雌雄ともに拇指があることが知られている。オットンガエルの拇指の意義については諸説あり、オス間闘争、抱接、捕食者対策、といった使用方法が考えられてきたが、詳しい検証はされておらず、拇指を使用した行動の観察もなされていなかった。ここでは、オットンガエルにおける拇指の進化的意義を明らかにするため、拇指形態や機能を雌雄間で比較した。奄美大島において、捕獲した本種の体サイズ、前腕、拇指サイズを測定し、また、捕獲時の反応や野外繁殖地における行動観察を行った。野外の行動観察では、オスが拇指をメスの脇腹に刺す形で抱接している状況や、メスや産卵用の巣をめぐって、拇指を使ったオス間闘争を行なう行動が観察された。雌雄ともに捕獲された個体のうち4割に傷が見られたが、オスは全身に広がる切創が多く、メスは脇腹の刺創が多かった。拇指サイズは明らかな性的二型が見られ、オスの拇指は同じ体サイズのメスの拇指よりも大きかった。捕獲した際に本種の胸を刺激すると、一部の個体では、腕を内側にひきつけ、腕の中に入った対象物に拇指を刺す反応を見せた。この反応はメスよりもオスに高頻度に見られ、オス間闘争や抱接行動に因る反射反応と考えられた。雌雄とも、腕の外の捕獲者に対して拇指を使用した攻撃を行なうことはなかった。以上より、オットンガエルの拇指は、主にオスによって使用され、オス間闘争や抱接を通じて繁殖成功を高めることに寄与していると考えられた。