| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-285

オーストラリア全土に分布拡大したヒノキ科樹木Callitris columellarisの遺伝的分化

*阪口翔太 (京大院・農), 津村義彦, 伊原徳子, 内山憲太郎 (森林総研), D. Bowman, L. Prior (タスマニア大), M. Crisp (オーストラリア国立大学), 井鷺裕司 (京大院・農)

ヒノキ科Callitris属はオセアニア地域で多様化を遂げた針葉樹群である.その中には,ニューカレドニアやオーストラリア東岸に分布する湿潤熱帯性種から,オーストラリア大陸の内陸部にまで分布する耐乾性種が含まれ,本属の多様化の中で劇的なバイオーム間シフトが起こったことを予想させる.しかしながら,本属の分子系統情報が不足しているために,こうしたシフトがどのような時代背景に呼応して起きたのかは明らかでない.一方で,Callitris columellarisはオーストラリア全土への分布拡大に成功した種である.この種内には,地理的に分断化された北部集団(湿潤熱帯)と南部集団(乾燥温帯)が含まれ,気候変数に対する生態的応答パターンが異なる.第四紀後期に起きた氷期-間氷期サイクルはオーストラリア大陸の植生分布に大きく影響し,氷期には内陸の砂漠が沿岸部近くまで拡大したことが知られている.こうした気候変動はこれらの地域集団のうち,湿潤熱帯気候を好む北部集団の分布により大きな影響を与えた可能性がある.本研究では2つの時空間的スケールにおいて,Callitris属の多様化プロセスを明らかにすることを目的とした.Callitris属内の多様化を再現するために,属内全種と現生ヒノキ科の全属を含むサンプルに基づいて複数の葉緑体遺伝子座を解析した.また,C. columellarisの遺伝構造をSSR遺伝子座を解析することにより評価した.加えて,北部・南部集団それぞれに生態ニッチモデルを構築し,第四紀後期の気候変動に応じた分布適地の変遷を再現した.これらの情報に基づき,C. columellarisの遺伝構造がどのように形成されてきたのかを議論する.


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