| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-292

周伊勢湾地域における湿地性希少植物の地理的変異パターンのメタ解析

*佐伯いく代(横浜国大・環境), 小池文人,村上哲明(首都大・理)

伊勢湾をとり囲む丘陵地帯(以下周伊勢湾地域)には、低湿地と呼ばれる特異な湿地が分布する。低湿地は、湧水によって涵養され、ごく貧栄養であり、泥炭の堆積がみられない。これらは百万年を超える長い期間、本地域に高い密度で形成され続け、そのことが多くの固有種を呼び込み、特異なフロラの形成をもたらしたといわれている。本研究は、低湿地に生育する希少植物群の遺伝的変異を葉緑体DNAの情報を用いて比較し、共通の地理的パターンの有無を検証することを目的とした。静岡県、長野県、岐阜県、愛知県、三重県に分布する40箇所の低湿地において、12種の湿地性希少植物(ミカワバイケイソウ、ヒトツバタゴ、シラタマホシクサ、ヘビノボラズ、トウカイコモウセンゴケ、ミズギボウシ、ヤクシマヒメアリドオシラン、カザグルマ、サギソウ、ムラサキミミカキグサ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ)の葉片を、1種につき17~127個体採集し、葉緑体DNAの遺伝子間領域を解析した。その結果、10種から変異が検出された。比較的多くのハプロタイプが見出されたのはミズギボウシ(13)とミカワバイケイソウ(10)であった。一方、ハプロタイプの数が少なかったものはカザグルマ(3)とサギソウ(2)であった。変異が見出された種はハプロタイプの分布に地理的まとまりがみられ、いくつかの種では共通のパターンが示された。三重県北部と愛知県渥美半島の間では、伊勢湾による隔離にも関わらず、3種において共通のハプロタイプが出現した。また、恵那山脈によって隔離される長野県南部と岐阜県東濃地域間でも、複数の種において共通のハプロタイプが分布していた。周伊勢湾地域の湿地性希少植物の中には、葉緑体DNAの変異において共通の地理的パターンを持つものがあり、またそのパターンは必ずしも地形的障壁と相関があるものではないことが明らかにされた。


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