| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-293
細長い雄交尾器(生殖肢)はそれを追うように雌体内へと入る。この「雌が引っ込み、雄が追う」様式は、性的な軍拡競走の現れと見ることができる。この様式では、交尾の際に雌雄の交尾器相互作用に起因する傷を生じやすい。この軍拡競走と交尾器形態の関係を明らかにするために、系統的補正を組み込んだ一般化推定方程式によるモデル選択や形質祖先状態などにより集団を単位とした解析を行った。形質としては、体サイズと各種交尾器形質(コストである相対サイズと傷、突起の有無などのメジャーな構造、主成分で表される形状など)を用いた。その結果、次のことが示唆された。(1)コストである交尾器相対サイズと傷量は雌雄間で相関し、かつ雌雄相対サイズと相対サイズ雌雄相関度は共に姉妹クレードより有意に大きく、本属が性的な軍拡競走状態にあるこことが支持される。(2)軍拡競走は「雌が引っ込み、雄が追う」機能を持つと思われる構造形質の出現をきかっけに雌有利として始まり、その後、雌雄間での拮抗的な構造変化に伴い雌雄平衡、そして雄有利へと進んでいる。(3)軍拡競走に関わる形質は、雌雄交尾器の相対サイズと構造、雄交尾器相対長、雌交尾器の形状と相対サイズ進化量、及び体サイズである。これらのうち雌交尾器形状以外は「雌が引っ込み、雄が追う」機能に関わると考えられる。(4)交尾器の形状と相対サイズ進化量については雌のみにおいて軍拡競走との関係が検出されており、軍拡競走の開始も雌交尾器の構造的イノベーションが重要であることを併せて考えると、軍拡競走への関わりは雄よりも雌の方が強い。(5)雄交尾器形状は主に交尾時に雌交尾器と最もタイトにかみ合う部位において集団間で変異し、触覚を通じた雌の選択など他の要因の影響を受けている。