| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-303
大都市圏に新型インフルエンザ等の感染症が出現した際の,通勤・通学ネットワーク上における感染症流行過程を数理モデルに基づいて解析した.大都市交通センサス・データ(国土交通省)の鉄道駅間輸送データを用いて東京大都市圏における通勤・通学時の人員移動データを取得し,現実の都市圏における交通流動を個体ベースモデルにより再現した.感染動態として集団を感受性状態,感染状態,回復状態に分けたSIRモデルを用いて感染症流行の数値シミュレーションを行った.
感染症が初期絶滅せずに広範囲に拡大したものを感染症流行と定義し,この感染症流行が生じたものに関して解析を行った.感染動態を表す指標として,特に各駅毎の”感染症到着時刻”および”感染症最終規模”に着目した.結果,次のことが分かった.(1)初期感染者利用駅の規模が大きく病原体の感染力が強い程,感染症流行が起きる割合が高くなる.この際,初期感染者利用駅のネットワーク上の位置に依らず同程度の規模であれば同様の割合となる.(2)ある駅における感染症最終規模は,初期感染者利用駅の規模や位置にはよらず,その駅の利用者数が多く感染力が強い程大きくなる.(3)ある駅への感染症到着時刻は,その駅の利用者数が多いほど早くなり,また,初期感染者利用駅の規模が大きく感染力が強い程早くなる.この際,各駅への感染症到着時刻はその駅の利用者数に対してべき則に従う形で分布する.(4)駅間利用者数の規模分布を同じにして位置情報を捨象したモデルを用いて解析をしたところ,個体ベースモデルの結果を定性的に再現できた.このことから,感染症流行過程は個々の駅の通勤・通学ネットワーク上の位置に依らずに駅間利用者数の規模により決まることが示唆される.