| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-308
進化ゲーム理論は進化生態学を数理的に取り扱う枠組みとして確固たる地位を築き、近年では様々な空間構造を考慮した進化ゲーム理論の研究が進みつつある。しかし、従来の進化ゲームのモデルの多くは、各戦略の頻度に注目する頻度動態のモデルであり、個体群動態が暗に無視され、空間構造を考慮した進化ゲームの多くは、空間を格子上に区切った離散空間が仮定されている。
動物個体間の1対1の対戦を想定する古典的ゲームの1つにタカ・ハトゲームがある。タカ・ハトゲームとは、資源を巡って闘争を激化させるタカ戦略と闘争を回避するハト戦略を想定し、資源の価値Vと闘争のコストCの比b=V/Cに依存してタカとハトの平衡頻度が決まるゲームである。古典的タカ・ハトゲームでの資源VやコストCといった利得は概念的な値に過ぎず、実証的に検証することは極めて困難である。本研究は、これらの利得を生物学的に検証可能な値として実質化し、タカ・ハトゲームを個体の視点に基づく個体ベースゲームとして再構築することを試みる。本ゲームでは、連続空間上に位置する各個体はある大きさの縄張りを構え、縄張りから得られる再生可能な資源を利用して繁殖し、各個体は縄張りの重複に応じたゲームを展開する。個体間のゲームの帰結としての利得を機械論的に記述することで、タカ個体とハト個体の個体ベースとしての個体群動態の再現が可能となる。さらに、縄張りの大きさ、個体の移動分散距離といった、様々な適応的形質の進化を考慮した進化動態の再現も可能となる。またシミュレーション結果を数理的に記述する力学系モデルの導出を試みる。
本研究は個体レベルの機械論的相互作用から集団レベルの振る舞いを理解する試みの1つである。現実的な個体の視点に基づくアプローチにより、実証的に検証可能なゲーム理論の展開が可能になると考え、生態学における個体視点のモデリングの重要性について議論する。