| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-310
寒帯から亜寒帯にかけて周北極的に分布するチョウノスケソウ(Dryas octopetala L. sensu lato)は、分布南限地の1つである日本では高山帯に飛び石状に隔離分布する.日本のような中緯度地域の高山帯に分布する氷河期遺存種では,最終氷期以降の温暖化によって分布域が高山帯へ押上げられる過程で,集団サイズの縮小や分断化を受けたと考えられるため,集団内の遺伝的多様性の喪失や集団間の遺伝的分化が生じやすいと予想される.本研究では、日本の高山帯および高緯度地域に分布する集団の遺伝的多様性を比較することで、氷河期遺存種における集団の遺伝的脆弱性を評価しようと試みた.
日本列島の5つの山岳地域および国外の6地域の集団を対象に、マイクロサテライト9遺伝子座の多型性に基づいて、集団の遺伝子多様度、集団間の遺伝的分化度の推定を行った.その結果、高緯度地域と比較すると日本の高山帯に隔離分布する集団では、集団間の遺伝的分化の程度が大きく、遺伝的多様性が大きく喪失していることが明らかになった。日本列島の中でも、本州中部地域、とくに南アルプスにおける遺伝変異の喪失が顕著であり、遺伝的脆弱性に関するリスクが高いと考えられる。遺伝的多様性が低いレベルの集団では近交係数が高く、小集団化に起因する近親交配によって遺伝的多様性が喪失したと考えられる。一方で,北海道では遺伝的多様性は比較的保持されていた.最も遺伝的多様性レベルの高かったのはアラスカ集団であり,ベーリンジア・レフュージア仮説を支持する結果が得られた.