| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-313

日本に生育するカバノキ属2樹種,シラカンバとダケカンバの比較系統地理学的研究

*平岡宏一, 大谷雅人, 宮本尚子, 岩泉正和(森林総研林育セ), 那須仁弥(森林総研林育セ北海道), 高橋誠(森林総研林育セ)

シラカンバ(Betula platyphylla var. japonica)とダケカンバ(B. ermanii)は、日本に生育するカバノキ属の落葉高木である。シラカンバは、本州の亜高山帯下部や北海道の落葉広葉樹林帯に分布し、植生遷移の初期に現れる先駆樹種であり、山火事などの攪乱跡地などに優占し純林を形成することが知られている。一方、ダケカンバはシラカンバと類似した立地に出現するほか、亜高山帯の森林限界直下などの寒冷な環境下でしばしば純林を形成する。日本の亜高山帯林で重要な生態学的地位を占めるこれら2種では、植栽木による遺伝子攪乱の対策に資するのに十分な遺伝構造は得られていない。そこで本研究では、シラカンバおよびダケカンバの日本列島における分布域全域から試料を採取し、パネル集団を用いて葉緑体DNAの多数の領域の塩基配列を決定し、変異の探索を行った。

分析の結果、シラカンバでは25領域のべ約23kbpの塩基配列中、塩基置換や挿入・欠失などの多型は全く認められなかった。一方、ダケカンバは10領域のべ約7.5kbp中、1つの塩基置換と6つの挿入・欠失の変異が認められた。シラカンバは単型で、ダケカンバはいくつかの多型を示すという傾向は、PCR-RFLPによる先行研究の結果(Tsuda and Ide 2009)と一致する。この先行研究ではシラカンバは一部のダケカンバと同一のハプロタイプを共有し、2種は明確に区別されないとされていたが、今回の解析では、シラカンバとダケカンバを区別する、それぞれの種に固有な変異が検出された。今後さらに分析領域と供試集団数を増やして、さらに葉緑体DNA変異を探索し、2種の比較系統地理学的研究を進めていく予定である。


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