| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-316

オオヤマレンゲ(Magnolia sieboldii)の系統地理〜亜種間で浸透性交雑はあったのか?

*菊地賢(森林総研)

オオヤマレンゲ(Magnolia sieboldii ssp. japonica)は、標高1000m以上の山地に生育する、モクレン科の落葉低木である。日本では関東地方から屋久島にかけて分布し、中国中南部にも隔離分布する。一方、亜種オオバオオヤマレンゲ(ssp. sieboldii)が朝鮮半島に分布している。

葉緑体遺伝子間領域を解析した先行研究では、四国・九州地方のオオヤマレンゲ集団のハプロタイプが他の地域とは遺伝的に明確に異なり、オオバオオヤマレンゲと共通、あるいは近縁なハプロタイプを持つことが明らかになった。

そのため、過去に陸橋の形成により、分布の二次的接触による亜種間の交雑が生じ、細胞質捕獲によりオオバオオヤマレンゲの葉緑体遺伝子が四国・九州集団に浸透したことが強く示唆されたが、これらの地域は花形態などに見られる形態的な変異がやや大きく、亜種間交雑による核遺伝子の遺伝子浸透が生じている可能性も示唆された。

本研究では、これらの仮説を検証し、オオヤマレンゲの系統地理を解明するため、LEAFY gene (LFY)、Phytochrome A gene (PHYA)およびAgt1 geneの核遺伝子3領域において、イントロン領域の塩基配列解析をおこなった。国内の分布域全域および韓国のオオバオオヤマレンゲ3集団、さらに外群としてM. wilsoniiM. sinensisから採取したサンプルを用い系統解析をおこなった結果、Agt1ではオオバオオヤマレンゲが固有の遺伝子型を示し、LFYでは日本のオオヤマレンゲ集団が単系統性を示すなど、遺伝子座によって結果は違ったが、いずれの座でも日本のオオヤマレンゲ集団と朝鮮半島のオオバオオヤマレンゲ集団とは系統を異にし、遺伝子型を共有しなかった。

これらのことから、オオヤマレンゲ・オオヤマレンゲ亜種間の交雑により核遺伝子の浸透性交雑が生じた可能性は支持されなかった。


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