| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S08-5

日本列島の生物多様性が維持されてきた要因

辻野亮(地球研)

日本列島地域は、生物多様性が高いにもかかわらず破壊の危機に瀕していて緊急かつ戦略的に保全すべき地域として世界34ヶ所の「生物多様性ホットスポット」のうちのひとつとされている.

日本列島に多様な生物が生息している要因として,3つの仮説が挙げられる.第1に日本列島は水平的・垂直的な環境の広がりや,数千の島嶼からなり自然環境が多様で豊かであることである.第2に生物相が形成されるにあたって過去の気候変動と地形形成などの地史が豊かな生物多様性を涵養したことである.第3に日本列島では人と自然の関係が調和的で,人々が「賢明」に生物多様性を利用してきたことである.

特に第3の仮説について検討した.日本列島におけるさまざまな生物資源の利用の歴史や人と自然のかかわりの歴史を概観したところ,生物多様性を脅かす森林の大規模攪乱を古代と中世,近世初期に経験しながらも,近世においては独自の森林管理を発展させ,近代以前の日本における人と自然のかかわりには生物資源を枯渇させないような「賢明な利用」が行われたことは確かにあった.一方で,古代においては針葉樹のコウヤマキが木棺の材料などとして枯渇的に利用されたり,近代になると東北地方でさまざまな哺乳類に過剰な狩猟圧がかけられたこともあった.

果たして生物多様性は維持されてきたのだろうか.過去の森林伐採によって生物多様性が喪失していたのかもしれない.それでも現在の日本列島で生物多様性が高い要因として考えられることは,1)もともと生物多様性が非常に高かったから,2)原生自然が破壊されても,人為的な逃避地(里山,神聖な森,半自然草原)が存在したから,3)高山や奥山,地形険阻な森林なども逃避地として機能したからではないだろうか.


日本生態学会