| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S11-5

地域固有絶滅危惧種シモツケコウホネを守る:ユビキタスジェノタイピングから見えてきたこと

志賀隆(大阪市立自然史博物館)・横川昌史・兼子伸吾・井鷺裕司(京都大)

シモツケコウホネNuphar submersa Shiga & Kadono(スイレン科)は2006年に新種として発表された栃木県固有の絶滅危惧水生植物である(絶滅危惧ⅠA類)。栃木県中部の河川や水路に生育していたが、圃場整備などによってそのほとんどは絶滅し、現在では3地域(日光市、那須烏山市、真岡市)に群落面積にして合計60㎡残っているに過ぎない。そのような中、生育面積が最も広い日光市では、2009年に移植による系統保存と現状維持地区を設け、保全に配慮した形で圃場整備が実施されることになった。そこで発表者らは有効な保全策の提案を目的に、現存する株の網羅的な遺伝子型決定(ユビキタスジェノタイピング)を行い、各集団の個体数や遺伝的多様性を評価した。

サンプルは、0.5m間隔で採集し(日光市202株、那須烏山市58株、真岡市7株)、マイクロサテライトマーカー12遺伝子座を用いて遺伝子型を決定した。その結果、3集団とも遺伝子座あたりの対立遺伝子数1.6~1.9、ヘテロ接合度0.11~0.42と低い遺伝的多様性を示したものの、日光市27個体、那須烏山市15個体、真岡市3個体の合計45個体を識別することができ、遺伝子型多様性は集団内に維持されていることが明らかになった。また、各集団はそれぞれ同程度、遺伝的に分化しており(Da=0.38~0.44)、集団サイズが小さく個体数が少ない真岡市の集団も系統的に重要であることが明らかになった。

日光市での圃場整備を遺伝的多様性の面から評価すると、現状維持地区を設けたことにより20個体を残すことができた反面、残念ながら移植によって複数個体が失われていた。このようにユビキタスジェノタイピングは保全事業のチェック方法としても有効であった。この他にも現地での保全活動について紹介し、ユビキタスジェノタイピングに基づく保全活動の有効性を議論したい。


日本生態学会