| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S13-2

多様な生息地への適応を制限するゲノム構造

牧野能士(東北大院 生命科学),河田雅圭(東北大院 生命科学)

環境勾配や地理的障害などの環境要因が、種の生息範囲を制限していると考えられる。しかし、もし生物が新しい環境に適応することが可能なら分布を拡大することが可能である。従って、新しい環境に適応進化できるかどうか(進化可能性)は生息地の広さを決める重要な要因であると思われる。この進化可能性には、適応に関わる性質の遺伝的な多様性などの遺伝的要因が深く関わっていると考えられているが、その実態は明らかとなっていない。生息範囲の維持・拡大に寄与する進化可能性を決定する遺伝的要因を明らかにすることは、地球温暖化などの環境変化により生態系がどう応答するかといった課題を考える上でも重要となる。我々は、遺伝的多様性を生み出す機構として遺伝子重複に着目した。遺伝子重複は真核生物ゲノム上で頻繁に起こることが知られている。重複した遺伝子は、その冗長性により機能的制約から解放され変異が蓄積しやすい。そこで、遺伝子重複が遺伝的多様性を生み出し新規環境に適応する遺伝的基盤を支えていると仮説を立て、環境適応能力が高い種に重複遺伝子が多いかどうか検証を行った。研究対象としてゲノム情報既知のショウジョウバエ属11種に着目した。ショウジョウバエ属の全遺伝子のアミノ酸配列をEnsemblデータベースより取得し、相同性検索により重複遺伝子の同定を行った。また文献よりショウジョウバエ属の生息範囲を調査し、その範囲内における気候情報から生息環境多様性を推定した。系統的制約の排除、回帰分析、変数選択を行った結果、ゲノム中の重複遺伝子の割合と生息環境多様性には強い相関があることが明らかとなった。また、進化的解析により環境適応能力の高い種で重複遺伝子がゲノム中に保持される傾向を見出した。本研究において得られた知見は、環境変化へ応答しにくい種の推定や保全すべき種の決定に有効であると考えられ生態学的な意義は大きい。


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