| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S15-1

超並列シーケンスによる海洋微生物の多様性解析

浜崎恒二(東大大気海洋研)

環境中に生息する微生物の99%以上は難培養性であることがわかっている現在、微生物群集の多様性解析は、環境試料より直接DNAを抽出し、系統分類指標として16SrRNA遺伝子をPCR増幅し、その塩基配列を決定することによって行われる。しかし、従来の配列決定技術の速度とコストでは、一つの試料について数十種程度の優占種を解析することはできても、数百〜数千種に及ぶ稀少種まで網羅しつつ複数の試料を比較することは技術的にも経済的にも困難である。本講演では、国際微生物センサスの一環として実施された、従来法の百倍の解析速度を有する454パイロシーケンス法を利用した海洋細菌群集の多様性研究について紹介する。南太平洋南北縦断観測によって採集された赤道、亜熱帯、亜寒帯、南大洋の4点の海水試料につき、約17万リードに及ぶ16SrRNA遺伝子V6領域の配列情報を取得し多様性解析を行ったところ、各点につき300-1000のユニークなOTU(Operational Taxonomic Unit)を見出すことができた。見出されたOTUの約70%は、出現頻度が0.015%以下の稀少な細菌グループによって構成されており、ハロゲン化ヌクレオシドをトレーサーとする増殖活性解析によって、これら稀少細菌グループの少なくとも約20-50%は、休眠状態ではなく活発に増殖していることがわかった。現状では、系統解析を行うには短すぎるリード長や、シーケンスエラーによる見かけの多様度増大の問題など、さらに検討すべき課題も指摘されているが、454パイロシーケンス法を利用した16SrRNA遺伝子の大量リードによって、予想以上に多様な稀少細菌グループの存在が明らかとなってきた。


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