| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T01-2
北海道南西部の渡島半島地域は,平野部が少なくヒグマ本来の生息域である森林と,人間の活動域である農地が近接しており,ヒグマの農地への出没や農作物の食害が頻発している。各町村で記録しているヒグマ出没情報によれば,農地への出没は6,7月頃から見られるようになり,農作物が成長し,収穫を迎え始める8,9月に食害が発生する。食害が繰り返し起きた場合,被害防除対策は捕殺に頼っているのが現状だが,捕殺以外の対策として,電気柵の設置や農地周辺の刈り払いなどの有効性も確認されており,これら非致死的かつ予防的(→ヒグマを農地に近づけない,農作物を餌と学習させない)措置の推進も今後より必要になってくると思われる。このとき,ヒグマが出没しやすい農地の立地条件が予めわかっていれば,効率的・効果的に対策を講じることができると考えられる。そこで,農地への出没記録が詳細な渡島半島森町を研究対象地とし,ヒグマの被害を受けやすい農地の立地条件を解析し,その結果から出没要因について考察した。森町役場が整備した1991年~2007年までの記録から,農地への出没が明らかな位置情報145件(農地65箇所)を使用し,出没の有無を目的変数とした。また,①農地面積,②農地に隣接する森林の距離,③~⑥民家,送電線,河川,道路各々からの最短距離,⑦地形の複雑さ(標高の変動係数),⑧~⑯農地の500m以内に含まれる各植生被覆の面積割合(常緑針葉樹,広葉樹,カラマツ林,ササ,伐採跡地,草地,民家,人工物,果樹園の9区分),を説明変数とし,一般化線形モデルにより分析した。分析の結果,送電線に近く,地形がより複雑で,周囲に広葉樹林とカラマツ林が多く,民家から遠い農地に出没しやすいという結果が示された。講演では,同地域で得たヒグマ5頭のGPSテレメトリデータと併せて,これらの立地条件がどのような意味を持っているか考察する。