| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T02-2
中国雲南省からミャンマー、ラオス、タイにかけての広大な山岳地域は、気候帯としては熱帯および亜熱帯に属し、植物地理学的には全北区系界(日華区系)と旧熱帯植物区系界(インドシナ区系)の境界域である。インドモンスーン気候下にあり、明瞭な乾季があるが、山地上部は雲霧帯となり年間を通して湿潤である。ここは、山地の植生が熱帯から亜熱帯にかけて水平的にどのように推移していくかを明らかすることが可能な、研究上、興味深い地域であるが、植生に関する研究は不足し、また散逸しており、植生地理学的なヴィジョンは得られていない。本講演では、まず、本地域の南端に近い北タイのドイインタノン(海抜2,565m)における、植生の垂直分布帯や山地林の種組成の植物地理学的特徴について述べ、次に雲南省中・南部の山地植生について文献情報も含めて整理し、植生地理学的な視点から、この地域の山地林の特性について考えてみたい。
ドイインタノンでは、海抜1,000m以下では落葉性のフタバガキ科樹種が優占する乾生フタバガキ林(DDF)が卓越している。海抜1,000mを越えるとDDFの構成種は見られなくなり、多様なブナ科の樹種が優占する森林(ただし大部分は2次林)となる。海抜1,500m付近を境に再び植生が変化して樹幹の着生植物が目立つようになり、遺存種と考えられるミズキ科のMastixia euonymoidesが優占する樹高50m以上に達する高木林となる。この森林ではクスノキ科の種多様性も極めて高い。Mastixiaの垂直的な分布範囲は比較的狭く、海抜1,900m付近で消失し、再びブナ科の樹種が優占する森林へと変化する。樹高は20m前後にまで低下し、着生植物が増加して蘚苔林の様相を呈するようになる。頂上付近はブナ科の植物も欠落し、フトモモ科のEugeniaが優占する森林となっている。