| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T05-3

生態的形質置換の理論研究

小沼順二(マンチェスター大・生命)

同所的に生息する種間の形質分化は「形質置換」とよばれ、「生態的形質置換」と「繁殖的形質置換」に分けられる。生態的形質置換とは資源利用に関わる形質の分化パターンを意味し、代表例としてフィンチの嘴の分化パターンがあげられる。同様の資源を利用する近縁種は資源競争が激しいため、資源競争を避けるように適応した結果、そのような分化パターンが種間で生じ得るのではと考えられている。

一方、繁殖的形質置換とは、交配相手認識に関わる形質の分化パターンと定義され、代表例として、ヨーロッパに生息する2種のヒタキの例があげられる。異種間どうしの交雑は雑種が生存できないなどのコストを伴う。そのような繁殖干渉を避けるように交配前隔離機構の強化の結果、繁殖に関与する形質が種間で分化するのではと考えられている。

Schluter (2000)は数多く存在する生態的形質置換の研究の中で実際に資源競争を観測したものが少ないことを主張し、「資源利用に関わる形質の分化は本当に資源競争が要因として生じたのだろうか」という問題提起を行った。この問題に対し、私は「生態的形質置換と思われている幾つかの研究は実際には資源競争が要因ではなく、繁殖干渉によって生じたのではないか」という仮説を立てた。

私は、以下の仮定のもと表現型のダイナミクスを記述する数理モデルを構築し、本仮説を検証した。(1)2種が資源競争と交配相手認識を行う(2)形質値が近い個体間ほど資源競争と交配相手認識が強い(3)雑種の生存率が低い。

結果は、形質が種認識のマーカーとして働きやすい場合、たとえ種間に資源競争が全く存在しない場合においても資源利用に関わる形質が分化するということを証明できた。この結果は、繁殖干渉によって生態的形質置換が生じることが理論的に十分生じ得ることを示している。本企画集会では、進化生態学における本仮説の意義について議論を行う。


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