| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T05-5

捕食性テントウムシにおける寄主特殊化の進化

*鈴木紀之(京大・農・昆虫生態), 大澤直哉(京大・農・森林生態), 西田隆義(滋賀県立大・環境生態)501

側所的分布の維持や外来種による在来種の駆逐など、繁殖干渉と生物の地理分布との関係については実証研究が蓄積されてきた。しかし、同所的に分布する近縁種間のニッチ分割や資源利用形質の多様化に与える影響についてはほとんど明らかになっていない。本研究では、ジェネラリストのナミテントウと同胞種でスペシャリストのクリサキテントウを用いて、繁殖干渉と寄主特殊化の関係について調べた。

ナミは多種のアブラムシを利用する普通種であるのに対し、クリサキのハビタットは松類に限定され、エサは資源量の少ない松類のアブラムシに依存している。興味深いことに、松類のアブラムシはテントウムシの幼虫にとって非常に捕まえにくいエサであるにもかかわらず、クリサキは子への投資量を増やし、かつ孵化幼虫の形態を特殊化することによって適応している。ただし、クリサキは子の数を犠牲にしていること、さらに飼育条件下では他のアブラムシも利用できることを考慮すると、ナミによる何らかの影響が食性幅を制限していると考えるのが妥当である。

そこで、ナミとクリサキの相対頻度を変えて、メス成虫の繁殖成功(同種オスと交尾できたかどうか)を調べた。その結果、ナミのメスでは相対頻度にかかわらず繁殖成功が高かったのに対し、クリサキでは少数派になるにつれて繁殖成功が著しく低下した。すなわち、クリサキは頻度依存的な繁殖干渉のコストを一方的に被っているといえる。この非対称な繁殖干渉が、クリサキが価値の低いエサに特殊化していることと、それに引き続く資源利用形質の進化に貢献していると考えられる。


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