| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T12-1

植物プランクトン細胞サイズの進化適応動態

吉山浩平(東大)

種の中にはある特定の環境中にのみ存在しうるものがいる。世界最大の植物プランクトンであるEthmodiscus種(直径1-2 mm)は、太平洋など貧栄養な外洋にのみ存在し、沿岸域や湖沼では見られない。この巨大な珪藻は、他の小型植物プランクトンとうまく共存しているように思われる。栄養塩の取り込みに関しては常に小型の種が有利である[1]。一方、動物プランクトンが捕食可能な大きさは、100 µm程度までであり、捕食による選択も考えにくい。それでは巨大珪藻が環境に適応して存在しうるメカニズムは如何なるものであろうか?

進化適応動態理論では、各個体は資源取り込み速度や増殖速度といった形質で表され、群集は形質空間の部分集合で表される。一般的に各個体を表現する形質は多岐にわたるため、形質空間の次元は大きくなり理論的に取り扱うことは非常に困難となる。このため、現実的には形質相互の関係(トレードオフ)を導入し、形質空間の次元と広がりを抑える必要がある。

本講演では、様々な形質を実験的に得られた関係式を用いて「細胞サイズ」という単一の形質で表し、植物プランクトン群集の進化適応動態を解析した研究を紹介する[2]。制限となる元素が窒素であり、かつ間欠的に供給される場合、大きな細胞の種が進化し、さらに大小の二種の進化的二型が生じることが明らかになった。一方、制限となる元素がリンの場合、その供給頻度によらず常に小さな種が進化する。この結果は海洋(窒素制限)と湖(リン制限)において見られる珪藻の群集構造の違い(海洋-大きな珪藻が優占/湖-小さな珪藻が優占)をうまく表している。

[1] Yoshiyama & Klausmeier 2008 AmNat 171:59-

[2] Litchman, Klausmeier, & Yoshiyama 2009 PNAS 106:2665-


日本生態学会