| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T12-2
多くの樹木は毎年繁殖を行う訳ではなく、数年に一回の同調した繁殖パタンをみせる(マスティング)。この現象を説明する資源収支モデルによると、一回の繁殖に対する貯蔵資源の投資量が大きいときに間欠的繁殖が引き起こされ、逆に小さいときには毎年繁殖が可能になる。
本講演では、樹木の繁殖への資源投資に関わる係数を進化形質とし、アダプティブダイナミクスの枠組みでマスティングの進化条件の議論を行う。樹木の間欠的な繁殖は、繁殖を行なわない年に子孫を残せない事が大きな不利となるため、この点を補償する何らかのメカニズムが進化条件として必要であると考えられる。
私たちは実生バンク(幼い樹木の集団)の存在が間欠的繁殖の進化に貢献する事を見出した。実生が耐陰性(光が届かない林床でも長生きする性質)をもって長生きするときには、子孫が長年にわたってギャップ獲得競争に参加するので、間欠的繁殖の不利を補償する。結果として、実生バンクを持つ事で、間欠的で同調した繁殖が進化した。このことは、多くの耐陰性樹木がマスティングをおこなうという事実によくあう。
このモデルにおいて、実生の生存率に対する進化形質の依存性を調べると、実生生存率が小さいときには、毎年繁殖をおこなうが、ある生存率に達すると、毎年繁殖の進化平衡点が消失し、進化の最終状態がマスティングへと離散的に変化することがわかった(進化的ジャンプ)。
また、個木ごとの生存、枯死、繁殖を追跡する個体ベースモデルを用いて同様の解析を行ったところ、集団サイズの有限性によって引き起こされる遺伝的浮動(確率性)によって、上記の解析結果よりも小さな実生生存率であっても、マスティングが進化しうる事がわかった(進化的突破)。この結果は進化生態学において、集団の有限性を考慮する事の重要性を示唆している。