| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T13-5
ボーダー(境界)には豊かな生態系が残され、多くは野生動物の聖域となっている。だが、そのボーダーが係争地の場合、放置しておくと取り返しのつかないような生態系の激変を招きかねない。
ラッコがゆったりと海面を漂い、シャチが群泳し、アザラシ類が海岸線を埋め、エトピリカが群舞し、トドがほえる海。「日本最後の秘境」でありながら、未解決の北方領土問題を抱える日露の係争地・北方四島では、2007年からロシアによるインフラ整備が本格化し、豊かだった海も急速な資本主義経済化の過程で激しい密漁と乱獲にさらされている。実効支配されている以上、日本としては手も足も出せない。
だが、可能性が全くないわけではない。国連教育科学文化機関(UNESCO)の世界自然遺産に2005年に登録された「知床」を北方四島の北隣のウルップ島まで拡張するという構想である。世界遺産条約第11条3は「2以上の国が主権又は管轄権を主張している領域内に存在する物件を記載することは、その紛争の当事国の権利にいかなる影響をもたらすものではない」と定めている。
そこで、四島を共通項と考えてみる。四島までの拡張案なら、ロシアは実効支配の現状を盾に拒否するだろう。だがウルップ島を含む拡張案であれば、日本は「知床から北方四島まで」、ロシアは「ウルップ島から北方四島まで」を自国の領土としてお互いに主張できる。四島という共通項が「グリーンベルト(国境線の両側に設けた緩衝地帯)」の役割を果たしてくれる。領土問題を棚上げしたままで実現可能な保全策だ。これ以上事態が悪化しないうちに両国の研究者が手を携え、双方の政府を動かしてみてはどうか。
参考文献;大泰司紀之・本間浩昭2008『知床・北方四島』岩波新書カラー版,
本間浩昭2007「北方四島をどう保全するか」松永澄夫編『環境 設計の思想』東信堂