| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T14-2
景観構造の変化に対する種の反応の遅れは、世代時間の長い森林生や草原生の多年生草本で多く認められており、地域に残された個体群に内在する将来的な絶滅の可能性(絶滅の負債:extinction debt)が指摘されている。本研究では、関東平野の筑波稲敷台地を事例対象地として、現在の草原生植物の種多様性パターンと過去の景観構造との関係を検証することで、景観変化に伴う種の応答のタイムラグを検出した。具体的には、(1)現在の草原生植物の多様性を説明する上で、最も有意な関係性を示す景観構造の年代とその空間スケールを明らかにした。さらに(2)種特性の異なる種群ごとに、主要な景観変化に伴って生じたタイムラグの長さの違いを検証した。
(1)対象地における現在の草原生植物の種多様性は、現在ではなく過去(1880、1950年代)の景観構造(樹林と荒地の割合)と有意な関係を示した。また、伝統的な土地利用配置と対応した空間スケールが重要な意味を持つことが明らかになった。(2)草原生植物の中でも高茎の風散布型草本は100年以上のタイムラグを示した一方で、高茎の重力散布型草本はタイムラグが短く、景観変化に対して敏感に反応することが明らかになった。
本研究の結果から、現在の草原生植物の種多様性パターンは、過去の景観変化による影響を強く受けていること、また、過去の景観変化による影響は分散能力を主とした種特性によって異なることが明らかになった。今後は、景観の履歴が異なる地域での比較研究を積み重ねていくことで、研究結果の一般性や具体的な保全策への応用可能性を検討していく必要がある。