| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T14-3
過去の景観構造は、生物の現在の分布に少なからず影響をあたえている。これは、景観変化に対する生物の応答には、タイムラグが生じるからである。タイムラグの大きさは、生物の保全・管理をおこなう上で重要な情報であるため、近年盛んに研究がおこなれている。しかしながら、その研究例の多くは植物に偏っており、動物(とりわけ哺乳類)に関する情報はきわめて少ない。本研究では、本州における哺乳類の現在の分布に対して、過去の景観がどのような影響を与えているのか調べた。
哺乳類の現在の分布データは、環境省の第6回自然環境保全基礎調査(2000-2004年)を利用した。対象種は、この調査で取り上げられている8種(アナグマおよびツキノワグマ、イノシシ、ニホンジカ、キツネ、ニホンザル、タヌキ、ニホンカモシカ)である。環境要因には、1976年および1986年、1997年、2006年の土地利用面積と、最大積雪量、月最低気温を用意した。分布および環境要因はすべて2次メッシュに集計した。対象種の現在の分布は、第2回自然環境保全基礎調査(1978年)における分布から拡大していることが指摘されているため、分布適地を環境要因で表現したロジスティック関数(定着確率)と分布拡大カーネルを表現した指数関数(過去の分布からの分散確率)の積として、現在の分布を予測するモデルを作成した。土地利用の年代ごとにモデルを作成し、現在の分布を最も説明する年代を種ごとに推定した。
その結果、キツネとタヌキを除く6種で現在の景観が重要であることが示された。哺乳類は植物にくらべて分散能力が高いため、タイムラグが小さかったと考えられる。景観が生息に適さない状態に変化すると、哺乳類はすぐに移動(あるいは絶滅)してしまうのかもしれない。