| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T16-8
これまでの外来生物対策は脊椎動物や大型節足動物、植物など目視で種の識別が可能な生物の侵入に注目が集まり、「目に見えない外来生物」についてはこの生態学会においても相変わらず研究や議論が進んでいない。しかし、悪性の病原体を媒介する寄生生物や生態系の改変をもたらす微小な節足動物など、「目に見えない外来生物」は生態系のみならず人間生活にも深刻な影響をもたらす恐れが高い。特に、天然資源のほとんどを海外に依存する我が国においては、様々な輸入資材に紛れて非意図的に侵入してくる「随伴侵入生物」の問題が深刻化している。さらに、エキゾチック・アニマル・ペットブームによって様々な外来動物の輸入が今も盛んに行われており、それら外来動物とともに「人獣共通感染症」が持ち込まれるリスクも急速に高まっている。アライグマやマングース等、既に日本国内の野外で定着を果たし、今もなお、分布を拡大している外来哺乳類も、狂犬病ウィルスや鳥インフルエンザ、レプトスピラなどの深刻な病原体のベクターとなり得ることが既に明らかとなっており、一旦、これら病原体が国内に侵入した場合、瞬く間に生態系や人間社会の中で感染拡大が引き起こされることが懸念される。同時に、こうした感染症リスクについて、外来哺乳類の駆除事業担当者の間ですら、十分な普及啓発が行き届いていないというリスキーな現状がある。「感染症」の防除は本来、厚生労働省の管轄となる問題ではあるが、「人獣共通感染症」の運び屋が外来生物である以上、その持ち込みを根本的に規制することは、環境省外来生物法の重要な役目といえる。