| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T17-2

社会性アブラムシにおけるコロニー防衛の表現型可塑性:多様な兵隊の進化と起源

*植松圭吾, 柴尾晴信 (東大・総合文化)

アブラムシはその生活史において様々な表現型多型を示すが、その大部分は単為生殖によって生じた個体であり、同一の遺伝子型から異なる表現型が生じることにより、環境の変動に対応している。本発表では、コロニーを形成する社会性アブラムシにおいて、表現型可塑性によって生じ、コロニーの防衛をおこなう利他的個体である「兵隊」アブラムシに焦点を当てる。

まず、表現型可塑性によってもたらされるコロニーレベルでの適応の例として、イスノキにゴールを形成するヨシノミヤアブラムシの社会システムを紹介する。本種では、有翅成虫と無翅成虫が表現型可塑性によって生じる。有翅成虫はゴールから脱出し、次の宿主植物へと移動し、コロニーを形成するという分散・繁殖を担っている。一方で、無翅成虫は、繁殖に加えて兵隊としての役割を持つ。我々の研究から、無翅成虫は繁殖能力を失った後も長く生存し、外敵の攻撃に対して自己犠牲的なコロニー防衛をおこなうことが判明した。繁殖終了後の個体によるコロニー防衛は社会性昆虫において初の発見である。

次に、表現型可塑性が新奇な表現型の進化をもたらす例として、Colophina属のアブラムシにおける不妊の兵隊の進化について紹介する。本属では、表現型可塑性の結果、1齢幼虫において形態・行動ともに防衛に特化した不妊の兵隊が生じる。この兵隊の進化について、祖先種の表現型可塑性をもたらす発生プログラムを転用することで兵隊の進化が可能となったという仮説(Akimoto, 1985)が提唱されている。Colophina属3種についての形態解析の結果から、上記の仮説について議論したい。


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