| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T19-2
種多様性の緯度勾配などの地理的パターンを解明するためのアプローチの1つは、生態学的特性の進化、ニッチ分化に着目して多様化を説明することである。それに対して、生態学的特性が進化的な時間スケールで保持されるという性質、ニッチ保守性が種多様性の地理的パターンの形成に大きく寄与している可能性が指摘されるようになってきた。ニッチ保守性は祖先種の生態学的特性が子孫種に保持される傾向のことであり、近年の系統情報の蓄積に伴って、系統樹上でニッチが保守的かどうかに関する議論が活発になりつつある。種多様性の地理的パターンと密接に関係するニッチ保守性の1つに、熱帯ニッチの保守性、もしくは温度耐性ニッチの保守性がある。多くの系統が熱帯に起源し、熱帯ニッチの保守性が存在する場合、熱帯起源の生物は低温耐性を獲得することが難しく、温帯への移入・定着が制限されることになり、ニッチ保守性が潜在的に種多様性の緯度勾配を説明しうる。しかし、熱帯ニッチ保守性だけでなく、その他の環境要因に対するニッチ分化も種多様性の緯度勾配の形成に寄与していると考えられ、これらを同時に検討する必要がある。本研究では、日本列島の生物群集を対象として、種多様性の地理的パターンの形成に対するニッチ分化とニッチ保守性の寄与を検討した。これまでに蓄積された種の分布データから、種多様性の緯度勾配を定量し、また既存の気象・環境要因と系統情報を利用して、ニッチ分化とニッチ保守性を評価した。これらに基づいて、ニッチ分化とニッチ保守性が種多様性の地理的パターンに及ぼす影響を議論したい。