| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
企画集会 T22-2
多くの樹木の種子生産は、年毎に大きく変動し広範囲に同調する。このような繁殖様式をマスティングと呼ぶ。マスティングのメカニズムを説明する仮説として、最も有力視されているのが「資源収支モデル」である。これは、種子生産に豊凶のある樹種は、豊作年の開花や結実に必要な資源量が多く、またその資源の蓄積に時間がかかるために、種子生産に年変動が生まれるというものである。マスティングを制限する貯蔵資源としては、これまで樹体内の炭水化物の蓄積量が注目されてきた。しかし、マスティングを行う樹木は、種子生産に対して本当に長期間の炭水化物蓄積を必要としているのだろうか?この研究では、戦後の14C濃度の急激な変化を利用して、様々な樹木種子に含まれる炭素の構成年代と繁殖周期との関係を調べ、種子生産に対する貯蔵炭水化物の貢献度について検証を行った。具体的には、茨城県小川群落保護林の6haプロット内に生育し、繁殖周期の異なる落葉広葉樹12種について、1989年から1995年に採取された各樹種の種子を用いて、種子を構成する炭素の同化年代を調べた。そして、実際の種子生産年との差引きから、種子生産に利用される炭素の蓄積に必要な期間を特定し、それと繁殖周期との関係について解析を行った。その結果、調査した落葉広葉樹12種は、繁殖周期に関係なく、いずれの樹種も種子中の⊿14Cは種子採取年と同じ、つまり主として当年の光合成資源を使って種子生産を行っていることがわかった。繁殖周期が長く、豊凶の度合いの高い樹種でも豊作年の種子生産に対する貯蔵炭水化物の貢献度が低いことから、マスティングを制限する貯蔵資源やその役割について再考の必要があると言える。