| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T22-3

年輪炭素同位体比を利用した炭素循環変動解析

鄭 峻介(北大・地球環境)

東シベリアでは、大陸性の厳しい乾燥気候帯にタイガ林が存在している。この森林は永久凍土上にあり、環境変動に敏感な地域であるとともに、その広大な面積により、全球規模での炭素循環に大きな影響を与えると考えられる。このような乾燥地域においては、樹木の炭素固定量は水分環境によって規定されていると考えられており、炭素循環の理解には水循環の理解が不可欠である。

樹木年輪の生長量、及び同位体解析はその高い時間分解能により、生態系の生理状況を時間軸に沿って解析するための有用な手法である。本研究では、東シベリアのヤクーツク(62oN)において、優占種であるカラマツ(Larix cajanderi)の年輪サンプルを採取し、年輪サンプルを早材、晩材に分離して、年輪幅、及び年輪δ13C値を測定した。

早材、晩材の年輪δ13C値はそれぞれ、前年夏後半(7/15-9/15)、その年の夏後半の土壌水分量と明瞭な負の相関を示した。このことは、Kagawa et al. (2006)による13Cを用いたトレーサー実験によって示されたように、本サイトのカラマツが早材の形成に前年夏後半に固定した炭素も利用していることを反映した結果であると考えられる。

また、ある年の晩材と翌年の早材を組み合わせて1年輪とすることで、夏後半の観測土壌水分量との高い相関が得られ、その関係性から過去100年間の土壌水分量を推定し、年輪幅データと比較したところ、カラマツ年輪幅と前年夏後半の推定土壌水分量との間に良い対応関係がみられた。この結果から、前年夏後半の土壌水分量が翌年のカラマツの生長量を規定している可能性が示唆された。

このように、樹木年輪の生長量、同位体データの相互比較、及びそれらと様々な環境因子を比較することで生態系の中に潜む遅れ現象の検出が可能であると考えられる。


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